「さよなら歌舞伎町」という映画から見えてくる「人間力」のヒント

当ブログのメインテーマとして取り上げて、ぼちぼちこつこつ考察を重ねている「人間力」、目下のところ、全貌の解明にはまるで至っていないのですが、なんとなく「ひとりではなくて多くの人を巻き込むこと」や、「相手にその気になってもらうためのチカラ」ではないか、といった姿が、おぼろげながらも見えてきたような気がします。が、「人間力」なんてものは、抽象的な概念であるが故に非常にやっかいで、正体が見えかかってはするりと逃げられ、「テクニックのようなものかな」と、着地しやすい形に置き換えて考えてみても、奥が深くて仮着地もできず、すぐにまた振出しに戻ってしまう、というシロモノです。

一方で、私は「行間の多い」映画や音楽、言い換えれば「受け手のさまざまな解釈が可能な」作品が好きで、そういった作品に出会ったあとは、なんらか「人間力」的な何か、ヒントのようなものを抽出して、すぐいまいまの自分の「人生や仕事の困りごと」に、トライアル的に適用してみることにしているのですが、何しろ「行間が多い作品」から解釈してアクションを作り出しますので、解釈に時間がかかったり、直接的なアクションに落とし込むことに苦労する場合が多く、家電のマニュアルのように、読めばそのまま簡単に使い方を理解したり、実生活に適用できるようなことは、ほとんどありません。

「さよなら歌舞伎町」という作品(2015年公開、廣木隆一監督作)も、自分が思う「さまざまな解釈ができる」作品のひとつで、初めて観たあと、なんだかいろいろな思いややるせなさが交錯して、一時的には身に積まされる感じでなんとなく暗い気分になったものの、最終的には「まーぼちぼち生きていくかー」と、ほっこり感を得ることができました。作品の作り手とはまったくの他人である自分が、作品を見て諸々考えたうえで、結果的に「前向きな気持ち」になれる、ということは、なんらか「人間力」が含まれているのではないか、ヒントがあったのではないか、と思うのです。

誰もが日々なんとか生きている

少し作品の内容に触れますと、「さよなら歌舞伎町」は、タイトルのとおり新宿歌舞伎町が舞台です。仕事関係で昔から新宿界隈で活動的することの多い私には、非常に馴染みのある景色がたくさん描かれていて、立ち上がりからすんなり作品世界に入ることができました。映画は歌舞伎町のとあるラブホテルを舞台に、主人公といいますか、ラブホテルの雇われ店長の青年と、同棲しているミュージシャン志望の彼女、彼らの日常的なエピソードを軸にして、いくつかのサイドストーリーが並行して進んでいきます。

サイドストーリーでは、主人公の妹である学生兼AV女優と関係者、お互い相手に内緒で日本人の客相手に風俗とおぼしき仕事をやっていて、両方ともうすうす気づいているためしっくりいっていない韓国人カップル、女性が働く「ジューシーフルーツ」というデリヘルの店長や店員(ちなみにそこで働いている韓国人女性の源氏名は「イリヤ」です)、時効成立まで残りわずかの中年逃亡者カップル、家出JKの身の上話を聞いてピュアな感情を取り戻すチンピラなど、なにがしか闇や事情を抱えた人々が、誰もが大小なんらかの嘘をついたり、先延ばしにしたり煮え切らなかったり、時には小さい決断をしつつ、刑事事件の時効や枕営業、となりのホテルで起きる殺人事件など、いろいろな出来事に関わりながら、それでも日々なんとか生きていきます。

歌舞伎町や福島が象徴しているもの

映画では多くの説明はないのですが、主人公と妹のAV女優は福島の出身の設定で、会話から震災後であることがわかります。この作品の監督は福島出身だそうで、2017年には、東京と福島を舞台にした「彼女の人生は間違いじゃない」という作品も発表しています(こちらもおすすめです)。

登場人物や舞台設定を聞いただけでおなかいっぱいになったり、何か別世界の出来事のように思えて、拒否反応を示したりする方も少なからずいらっしゃるかと思いますし、もちろん人によって受け取り方は違うとも思います。あくまでも個人的な解釈ですが、「さよなら歌舞伎町」や「彼女の人生は間違いじゃない」は、平凡な日々の中ではあまり意識することのない「人間力」のヒントが、たくさん含まれているように感じられます。舞台を極端にすることで、「人間力」を浮き上がらせているのではないでしょうか。登場人物の一途さやいい加減さや人生の脱線具合、歌舞伎町が持つ雑多感、それから映画の背景にある福島など、題材としては一見極端で限定的で、関係者以外には別世界の出来事のように見えますが、「体験したり見たり聞いたりすることで、別の誰かの思考や行動に影響を与えるチカラ」、つまり「人間力」という誰もが持っている感覚を、作品を通じて見える形にしてくれている、と思うのです。良い映画でした。megさんというシンガーも作品を通じて初めて知りましたが、良いシンガーです。

 

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